voice

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GALERIE VIE

記憶を紡ぎ直すアート。

voice vol.2 / Midori Mitamura

現代美術作家 三田村光土里さん

Photography | Yurie Nagashima
Styling | Yuriko E
Hair and Make-up | Momiji Saito
Text and Edit | Yoshikatsu Yamato

ギャルリー・ヴィーのスタンダードアイテムをご着用いただき、
多様な分野でユニークな活動をする方々にインタビューする“voice”。

第二回のゲスト・三田村光土里さんは、
世界各国でインスタレーションを中心に作品を発表している現代美術作家。

自分の身に起きた出来事と、フィールドワークでの小さな発見を紡ぎながら、
ユーモアと感傷が入り混じるインスタレーション空間を表出してきた彼女に、
出会いと別れをくり返す、移動の多い人生で得た気づきについて聞きました。

人が足を踏み入れられるドラマ。

現代美術家の三田村さんの作品は、写真や映像、音楽や言葉、日用品などのさまざまな要素で構成されています。コラージュ的なインスタレーション空間は、鑑賞者にとって、一見脈絡がないように思えるモノの集まりです。しかし、その場に身を置くと、幼少期の記憶や、過去のちょっとした別れが思い出されます。そんな私的なエピソードや感情はモノの造形や流れる映像とリンクして、私たちは「追憶」に誘われていくのです。

三田村さん

私はインスタレーションを「人が足を踏み入れられるドラマ」に見立て、個人と社会の接点や、そのあいだを行き来する意識のようなものを投影してきました。“ドラマ”というと、映画やテレビドラマ、演劇や小説を想像する方が多いかもしれません。それらは、演じる側と鑑賞者のいる側が分かれていますよね。一方で、インスタレーションという三次元空間の作品は、見ている側が実際に作品のなかに足を踏み入れることができる。いわば“役者不在のセット”に入って、自分が主人公であるような視点で追体験をする見方もできるんです。

Slip # Parking Place(駐車場)

離れている時間がつくる、再会のワンシーン。

映像作品の《Till we meet again》は、風に揺れる白いカーテンや振り子の時計、シーソーや観覧車、何気ない部屋の一角などが、定点カメラで映し出されます。音声は、その場所の環境音や、三田村さんが友人との久しぶりの再会を喜ぶ他愛のない会話。とても個人的な内容ですが、この映像を見ていると、感情が揺れ動き出すのを感じます。「久しぶり。また会えて嬉しいよ」。おそらく誰もがしたことのある会話ですが、ありふれた会話だからこそ、自分の経験を思い出させて追体験するような感覚を抱くのです。

三田村さんは、2016年から2019年までの3年間で、ドイツやイギリス、スペインやオーストリアなどを、個展や芸術祭、アートイベントのために数ヶ月ごとに行き来するなど、移動に満ちた経歴の持ち主です。それだけ出会いがあり、別れがあり、そして再会がある人生を過ごしてきたということです。つまり、彼女にとって「久しぶり」という言葉は、同時に、また別れがくることの予感でもあるのです。

三田村さん

たまたま、こういう人生になりました。何十年間もたまたまが続いているような感じですね。作家というのは、縁があって何度か招いていただくこともありますが、ひとつの美術館に何度も招かれる機会はそれほどありません。だから行き先は毎回違います。国内でも、いつも一期一会ですね。

最近気づいたのは、私は、知らない土地を訪れて生活をするのが好きだということです。でも、観光は下手ですね。なにしたらいいんだろう・・・と、いまひとつ楽しみ方がわからない。それよりも、同じ街にいて散歩をしたり、なんとなく日常を送るのが楽しい。ルーティーンができて、滞在先の近所についての知識が増えていく。そんな感覚が好きなんでしょうね。だから、私はつねにゲストだし、引っ越しをしてきた人みたいな存在かもしれません。

ノスタルジーと狂気の色。

今回、三田村さんに着て頂いたのは、クラシックなデザインのコットンカーディガン。蒸し暑い夏でも心地よく羽織れるのは、コットンを細く強くねじり合わせたイタリア産のオリジナル糸から出来上がった、ドライな質感の生地だからです。網目が細かいハイゲージのニットは色の出方も美しく、重厚感のある深い色味。三田村さんにとって、オレンジ色はどんな印象の色なのでしょうか。

三田村さん

もともと好きな色です。鮮やかなオレンジは気持ちが弾む、元気な色ですよね。でも、使い方によっては黄昏(たそがれ)であるとか、切なくて、ノスタルジックな夕日の色でもある。そして、非現実的な諧調になると“狂気”を感じさせもして、印象にグラデーションがある色だと思います。

オレンジは日常に存在しています。真っ青な光は、人工でない限りあまりない。グリーンもない。オレンジは日常にある光だからこそ、それがズレると奇妙さへつながるのかもしれない。偶然でしたが、2022年の2月4日から2月20日まで東京都写真美術館で開催されていた恵比寿映像祭で《Till we meet again また会うために、わたしはつくろう》というインスタレーション作品を展示したとき、オレンジの照明を使いました。

そこは、床に置いてあるバッグから歌声が流れていたり、転がったランプが点滅していたり、あの世とこの世の中間を想起させるような空間です。作品のテーマである船の船体に使われていたオレンジをキーカラーとしてつくった色でしたが、今こうしてオレンジについて考えてみると、日常の延長線上にありながらも、それをエスカレートさせると狂気的にもなる色だから選んだのかもしれないな、とも思えましたね。

GALERIE VIE DIRECTOR’S NOTE

街の風景、植物が持つ絶妙な色あい。ギャルリー・ヴィーのカラーパレットは、シーズンごとに作られるイメージボードから発想されます。2022年の春夏のテーマは、心地よい造形のリズムと色彩を生み出してきた画家のアンリ・マティスがアトリエを構えた、フランス南部の街「サントロペ」です。

彼が暮らした街の写真を集めて、シーズンの色彩やデザインのアイデアソースにしています。たとえば料理の写真なら、白身魚にレモンが乗り、緑色の野菜が添えられている。テラス席で楽しまれるプレートにそそぐのは、その土地ならではの光。このように、色調やカラーのコンビネーションにヒントを得て、色を作り出していくのです。

ギャルリー・ヴィーでは、このように色を構築する方法にこだわりを持っていますが、色に対して特定の「意味づけ」は行っていません。たとえば「黒=礼節、エレガント」といったようなイメージでファッションを楽しむ視点もある一方で、そうした外側から与えられるルールではなく、自分自身の気分や経験から導き出されたルールに寄り添って、色選びをしてもらいたいと考えているからです。大人になると、ちょっとした選択にも、さまざまなフィルターがかかってきます。しかし、個人的な印象や色と結びついた記憶、色がもたらしてくれる「なんだかしっくりくる感覚」を大切にしていただきたいと考えています。

夜明け前 #bag

居場所は、他にもあるかもしれない。

ある国に滞在して、制作と発表を行い、また移動する。構築と解体、そして移動をしてきた三田村さんですが、これまでに1年間ほどフィンランドに住んでいたこともあったそう。しかし、それ以上は生活の基盤を移そうと思わなかったといいます。

三田村さん

確信を持って、ひとつの国に住み続けようと思ったことがないんです。だから、どこでもいいんでしょうね。見知らぬ街に暮らして、環境や住む人に近づく。このトライアルが好きなんだと思います。とはいえ、3ヶ月くらいを過ごして住み慣れてきた街を離れるのは、とても寂しい。

やっと友達もできて、打ちとけてきた頃でしょう。これから、というときに、次の土地に移動しなくてはいけなくなる。だからやっぱり、引っ越しなんですね。そしてまた時間が経って、その街に行って友達に会うと、久しぶりに会えて嬉しいと再会を喜ぶ。これくらいの人との距離感が美しくて幸せなうちに終わるのかしら、と思ったりもしてね。

春は年度が切り替わり、転勤や学校の卒入学など、帰る場所や向かう場所が変わる季節です。この時期に体験した感情は濃密で、ふと記憶が呼び出されやすい季節かもしれません。そんななかでも、長く着ていける洋服は、移り変わる自分に寄り添い、ともに移動してゆくもの。クローゼットを眺めて「そういえば、そのときもこれを着ていたし、あのときもこれだった」というように記憶が重なる服は、豊かだといえるのではないでしょうか。

三田村光土里 ウェブサイト
midorimitamura.com


void+

撮影にご協力いただいた「void+」は、表参道にあるアートスペース。
個展をはじめ、アートをめぐる様々なイベントが開催されています。

また、アートのセレクトショップ「void+stock」として、オンライン上で国内外のアート作品や書籍、印刷物を購入することも。
三田村さんの作品も展示・販売されています。
心地よい光が窓から差し込むミニマルな空間や、コンクリートの荒々しい表情に囲まれてアート作品が展示されている空間など、性質の違う空間が同居する「void+」は立ち寄るたびに発見のあるスペースです。

東京都港区南青山3-16-14 1F
※開催中の展示や、詳しい営業時間はホームページをご覧ください。
voidplus.jp

三田村光土里さん着用アイテム

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